七つの神社を巡る|ダグラス・ブラックさん(1)紹介コラム

10月15日からのメイン期間では、アーティストの屋外展示が始まります。
どんな考えや環境で創作活動を行い、土祭2021では、どんな世界を私たちに見せてくれるのでしょうか。
土祭2021の広報冊子『ヒジサイノート』に掲載中のアーティストへのインタビュー記事を、お一人ずつ、こちらでも順に紹介していきます。今後、住民レポーターさんたちによる制作風景のレポートの掲載も始まりますので、どうぞお楽しみにお待ちください。
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アートプログラム|七つの神社を巡る 七井地区 亀岡八幡宮
ダグラス・ブラックさん  「All Are One」

空がぱっとと広がるところ

ダグラス・ブラックさんのアトリエは、益子から車で三十分ほどの茂木町にある。八溝(やみぞ)山地を鮎が遡上する清流・那珂川(なかがわ)が流れる谷筋。わかりにくい場所だから近くまできたら電話をしてください。そんなメール受けて、指示された場所から電話をかけた。

「森に入ってしばらく進むと、突然、空がぱっと広がるところ。そこに在ります」

ほとんどをセルフビルドでつくり続けているというアトリエと自宅は、下に那珂川を見下ろす緩い傾斜地にあった。

ダグラスさんは、アメリカのカンザス州で生まれ育ち、コロンバス芸術大学で学んだのち陶芸を学ぶために来日する。初めの二年間は三重県で修行をし、その後、茂木町へ移る。来日が一九九〇年なので、もう三十年近くを茂木町で暮らしていることになる。

「毎日、朝9時くらいまでは、那珂川から立ち上る霧がかかる。今日みたいな雨の日は、蜘蛛の巣にできる水滴がとてもきれいだし、夜にフクロウの声が聞こえてきたり・・・。ウサギやリス、狐や狸もいる。もちろん蛍も」

最初に紹介されて住んでいたのは、もっと川沿いの古い藁葺きの家。初めて入ったときは、前に住んでいた人の洗濯物が干されたままで、狸が住んでいた。

「今も茂木の自然は素晴らしいけど、昔はもっと川の水もきれいだった。自然に惹かれてここに来たけど、今では、出会った人たちとの繋がりでここにいるようなものです」

大地に根差し、宇宙をあおぐ。

 ダグラスさんの土祭への参加は、今回が三回目となる。展示会場となる亀岡八幡宮に通いながら作品のコンセプトを固めている。「All Are One」というタイトルで、境内や隣接する丘陵地の小宅古墳群のエリアに新しい風景をつくりたいと考えている。過去の作品や今回のコンセプトの話を伺っていると、生き方としても表現のベースとしてもダグラスさんが大切にしているキーワードが浮かび上がる。

文化と農業。
過去と未来。
大地と宇宙。

「大地にグラウンディングする(根ざす)けど、宇宙に向けてアンテナも出す。その在り方が大切だと思うし、僕も考え続けながら、そのあり方を探している」

グランディングするという概念は、例えば、森の中に一日いるだけで心がきれいになったと自覚できたり、農業で土を耕したり、火を囲んで踊り続けたり、そんなことかな、と補足してくれた。

今回のタイトルに入る言葉「All」には、ダグラスさんが自然界から感知するさまざまなシグナルや、これまでに暮らしたり作家として訪れた国々で出会った人々のことなどが、壁も境界もなく包摂されるのだろう。
益子の土地に作品が立つとき、その上には、空がぱっと広がり、私たちの未来も視界が開ける。そんなインスピレーションを与えてくれるはずだ。

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ダグラス・ブラックさんプログラム紹介ページ
http://hijisai.jp/program/c-03-7/
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『ヒジサイノート 2号』より転載。
益子の未知の日常を探る巻頭記事なども掲載した土祭2021の広報冊子『ヒジサイノート』は
土祭オンラインサイトでも送料のみで購入できます。
https://hijisai.stores.jp
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取材・執筆 |簑田理香(風景社)、写真提供|ダグラス・ブラック

 

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