森を歩く|L PACK. (1)紹介コラム

10月15日からのメイン期間では、アーティストの屋外展示が始まります。
どんな考えや環境で創作活動を行い、土祭2021では
どんな世界を私たちに見せてくれるのでしょうか。
土祭2021の広報冊子『ヒジサイノート』に掲載中のアーティストへのインタビュー記事を、お一人ずつ、こちらでも順に紹介していきます。今後、住民レポーターさんたちによる制作風景のレポートの掲載も始まりますので、どうぞお楽しみにお待ちください。

会場となる杉林にて。中嶋哲矢さん(左)、小田桐奨さん(右)。撮影:柴美幸

アートプログラム|森を歩く   益子向原の杉林
L PACK. かつて確かに「彼」がいた場所へ

「この先に、本当に家があるの?」 都会から益子にきた客人を陶芸家の自宅兼工房に案内することになり、車の往来がある通りから脇道に入り、舗装路が終わり、鬱蒼とした杉林の中の細い砂利道を車で進む時、必ずといっていいほど、こう聞かれてしまう。

益子では四百人近い方が陶芸を生業としているとされ、できる限り静かで広い環境を求めて、まちなかや通りから離れ、砂利道の先の木立に囲まれた土地で暮らす人も多い。時折、道に迷った先で朽ちた木造家屋に出会うことがあり、その周りに散らばる、これから土に還ろうという素焼きのカケラなどから、かつてはここで土から器が作られ、それで生計を立てる人が暮らしていたことを知る。そこだけ時間が止まり、誰かが見つけてくれる時を待っている風景。

中嶋哲矢と小田桐奨の美術家ユニット、L PACK.は、今回の土祭で、益子に暮らす私たちにも見えていない、そんな世界に光をあて、益子の杉林で「ある陶芸家が生きた痕跡」を見せてくれる。
 
益子の旧・小宅小学校体育館で滞在制作中のお二人を訪ねた。オンライン会議中の中嶋さんにご挨拶を済ませ、小田桐さんに話を伺った。

滞在制作のアトリエとなっている旧・小宅小学校にて、制作の合間にお話を聞いた小田桐さん。

全国各地で、アートとまちづくりを接続し、クリエイティブな「場の創出」を展開しているLPACK.。やはり、お二人が大学で学ばれたという建築が起点なのだろうか?
「それはそうなのですが、建物を建てることより使う人や使い方に興味が湧いてきたんです。大学時代を浜松で過ごした僕たちの共通の体験に、倉庫を改装した大きなレストランがあって、そこに通いながら、オーナー夫妻と話をするという楽しみがありました。オーナー夫妻の存在が、建物と相まってとても素敵で。そんなことも原体験かもしれないです」

結成して14年。LPACK.としては「コーヒーのある風景」をテーマに期間限定のプロジェクトを各地で起こしてきた。2020年に、建築家の敷浪一哉さんと会社を立ち上げ、産官民での地域資源を生かしたまちづくりが進む大田区の池上で、その拠点でもあるカフェの運営なども担っている。

「場をつくったり運営したりすることは、作家活動なのか事業なのか、すごく曖昧なまま続けてきたんですけど・・。最近では、僕たちの作品としてつくるときは、架空の人物を想定して、その人がいた痕跡、その人が存在した風景を作ることを考えるようになりました。今回は、益子の民話集も買って読んでいて、民話って伝え広まってきているものだけど、本当にあったことなのかどうかは誰にもわからない。僕たちの作品も、会期が終わっても話だけが残り民話のように伝わって、いろんな人の記憶に残っていくといいなと思います」

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L PACK. プログラム紹介ページ
http://hijisai.jp/program/c-02-1/
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『ヒジサイノート 5号』より転載。
益子の未知の日常を探る巻頭記事なども掲載した土祭2021の広報冊子『ヒジサイノート』は
土祭オンラインサイトでも送料のみで購入できます。
https://hijisai.stores.jp
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取材・撮影・執筆|簑田理香(風景社)

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