地域づくりプログラム|益子地区「昔の街並み〜聞き取り調査」第1回・第2回

はじめに

見慣れた町の景色。
変わらないように見えても、日々その姿を変えています。
ついこの間まであったものが姿を消す一方で、

昨日突然「アラワレ」る景色も。

全体の印象はさほど変わらなくても、日々の変化が積もり積もって町並みは様相を変えていき、元の風景は消されていきます。
その一方で、人々の記憶の中ではいまでもしっかりと生きている風景もあります。
益子地区とヒジノワ cafe&spaceが、地域づくりプログラムの一つとして開催する「昔の街並みと子どもの遊び」。自分たちが忘れていた、知らなかった「益子の町」の姿を、記憶する方々のお話からよみがえらせ、次世代へと引き継いでいこうというのが、この企画です。
その準備のため、これまで5回にわたって益子地区にお住いの方々から「昔の話を聞く会(聞き取り調査)」を行いました。

※ヒジノワcafe&space(https://hijinowa.net/)は、2009年に開催された第1回の土祭(「Earth Art Festa 土祭」)の際、地域の方々や展示作家の手でリノベーションし展示会場として利用された築100年の民家を、土祭終了後も「みんなが集える拠点として活用しよう」と、改修に関わった有志がボランティアで運営しているコミュニティスペースです。

 

第1回目(4月10日実施)

第1回目は、本通り界隈の昔の様子のお話から始まりました。
伺ったのは、昔から本通りにお住いの、高橋正則さん(60代)、中田均さん(70代)、茂呂博さん(80代)、木村光臣さん。
はじめに高橋さんから、この界隈の歴史についてご紹介いただいた後、それぞれの思い出をうかがっていきました。

「鹿島神社から鶏足寺、太平神社までの道を『寺ばんば』と呼んだ。」(高橋さん)
「百目鬼川から小貝川への水の落ち口の南側は一面水田で、春先にはレンゲの花が咲いた」(同)
「落ち葉さらいをして燃料にしたから、山は掃いたようにきれいだった」(中田さん)

一つの話がきっかけになり、話題は町の歴史から子どもの遊び、自然とのつながりが強かった日々の暮らしなどなど、様々な「いつかの日常」が語られていきます。

「小貝川のはじが凍り、スケートを履いて通れた」(茂呂さん)
「今の役場の駐車場のところは沼で、ザリガニを取りに行った」(木村さん)

今の住所表示では無くなってしまった昔ながらの土地の呼び名、その呼び名から思い出される土地の成り立ち、そこで過ごした日の記憶、子どもの遊びや懐かしい風景。
ここでは紹介しきれないたくさんのエピソード。そのいずれもが、お話を伺う側の私たちにとっては現実として目にし、経験することはできないものですが、皆さんの生き生きとした語り口から、在りし日の益子を思い浮かべることできました。

 

第2回目(4月21日実施)

続く2回目では、前回の聞き取りに参加された岡崎多実子さん(70代)のアルバムを見せていただけることとなり、そこからまた別の「いつかの日常」を伺うこととなりました。

「昔は景色よりも人の写真を撮りましたね」
というお話でしたが、アルバムの写真では前回の聞き取りで伺ったレンゲ畑や岡崎家のたたずまいなども見ることができました。

また、「(真岡鉄道で益子に戻ってくる際に)小貝川鉄橋をわたるときの景色から、『益子へ帰ってきたなあ』という実感がわいた」という、住む町への想いを感じさせられるお話も。

人の記憶とは異なり、写真はその時の風景や風俗をそのまま切り取り記録します。ただ、残念ながら写っている情報以上のものは伝えてくれません。
一方、人間の記憶は、細部まで詳細にというわけにはいかないことも多いのですが、その時々の想いや空気を伝えてくれます。
一枚の写真を見ながら当時のことを伺うのは、双方がとどめている記録と記憶をつなげ、その時代のあり方を活き活きとよみがえらせるためでもあるのです。

第1回目の聞き取りが、益子本通りとそこでの暮らしだったのに対して、2回目はあくまでも個人の生活という狭い範囲のものかもしれません。
でも、町が個人の集まりでできている以上、こうした一人一人の歴史もまた、町の歴史に他ならないのです。

8月に開催予定の催事(http://hijisai.jp/program/a-02-2/)では、頂いた皆さんの「町の記憶」を大切に伝え、さらには多くの方の「記憶」を共有しつなげていくものになることでしょう。
引き続きこの後も聞き取りを重ねていきます。

土祭の総合プロデューサーを務められた馬場浩史さんは土祭について、
「この土地の歴史や自然に感謝し、これからの平和な世界を祈る祭」(「土祭2012公式ガイドブック」)と述べています。
町並みや景色が移り変わっていく中で、そこで過ごしてきた人々の記憶を次の世代へとつないでいくこの作業は、馬場さんのこの想いとつながり、さらには「益子の風土、先人の知恵に感謝し、この町で暮らす幸せと意味をわかちあい、未来につなぐ」という土祭本来のあり方そのものだと改めて感じました。

 

(土祭2021レポーター:鈴木利典|写真 簑田理香、鈴木利典)

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