住民プロジェクト|益子参考館円座「土壁の構造、荒壁用土作り」レポ

住民プロジェクト|益子参考館円座「土壁の構造、荒壁用土作り」

『昔ながらの暮らしの場であった民家を知ろう』

講師 望月崇史氏(大工) 講師・案内 萩原潤氏(設計士)

土壁を壊し、再生する   

10月26日、朝には雨が上がり、清々しい秋の日に益子町参考館での荒壁再生のワークショップが開かれた。
講師の、古民家の解体や修復なども行っている大工の望月崇史さんと設計士の萩原潤さんに土壁のことを教えてもらいながら、作業を体験した。

資料によると、このワークショップは、参考館定期的に行っている「円座」という文化的イベントの一つで、
濱田庄司の世界観を有している参考館という場所で、新たな人の輪をつくり、
今に生きる私たちがあらためて物を見る眼や感じる心を養いながら
再発見・共有していくことを試みているそうだ。
その考えに共感した望月さんと萩原さんが経年劣化で崩れた工房の土壁の修復を一般の人に参加してもらい、
濱田氏が大切にした昔ながらの暮らしが残る民家の作りに親しんでもらおうというイベントである。

敷地の中はたくさんの緑があり、古くて趣のある建物が点在している。
今回、再生する土壁の参考館細工場は、明治初期に建造された上大羽の製陶作業所だった建物を
濱田庄司が昭和16年に移築して、職人や数多くの弟子と共に作陶の場としたのだという。
そもそも、150年近く前に建てられているということは、移築した時点で築70年は経っていた建物だったということになる。
その場所に元からあったものであれば、直して使うということも理解できるが、何故移築してまでも、
その当時でさえ、古いその建物を使いたかったのだろうと素朴な疑問が湧く。
しかしそれは、ワークショップが進むにつれ、実感として濱田庄司の恐らく、
「遺したい」という思いに行き当たるのだった。

【 土壁の解体 】

・修繕する壁の土を木竹部に傷が付かないように解体する。

 丁寧に、解体した土壁を、ほぐす。

修繕する土壁はものの見事に崩れかかっていて、中の構造の一部がむき出しになっているお陰で、竹や縄が入っていることを知った。
それは、きっと今では壁の中に入れたりしないもの、当時は身近にあり、もちろん、天然のもの。
当たり前だが、自然のもので出来ているのだなと感心した。
そしてそれらは、再利用でき、やがて朽ちれば土に還るのだ。

壁をバールや金槌で慎重に叩いて、土の部分だけを落としていく。

土埃が舞い上がり、ものを壊しているという、普段なら咎められる行為にわくわくした。

土を取り除くと、壁の骨組みが露わになった。
格子状に組まれた竹の間から向こう側が見えて、美しいと思った。
しばし、見とれる。名も知らぬ職人の手の跡。

そして、崩した壁の土もほぐして、新たな壁の土に混ぜる。

【 原料の加工 】

原料  荒土壁は土、わら石灰、水
    竹小舞は間渡し竹、割竹
   縄は麻縄、棕櫚縄、藁縄

・原土から荒壁に使う土を作る

原土をつぶし、篩にかけ、石を取り除く。

陶器の原料でもある原土をハンマーで砕いて細かくしたものを、篩にかける。

青空の下でハンマーを握り、原土の欠片を叩く。
叩く音がトントン響いて、篩にかける度に土埃が舞う。
手を動かしながら、自然(必然!)とお喋りにも花が咲く。
初めて会った人なら、「何をしている人ですか?」とか、久しぶりに会った人なら、
「元気?最近どうしてた?」など、日々のことだとか、みなさん、どんどん交流を深める。

・藁からスサを作る

藁を手で摺り合わせて、ほぐしスサを作る。

乾燥した藁を裁断機で5㎝位にカットする。
ざくっと小気味よい音がして切れた。
ばらばらになった藁を両手で摺り合わせてほぐす。
とても地道な作業だがひとつひとつの行為に意味があって仕上がりに繋がってくると思うと、作業に重みとやりがいを感じた。

【 荒壁土の加工 】

・練り土作り

土、スサ、ほぐした土壁を、フネ(木で作られた枠)に入れ、クワでしっかりと撹拌する。
水を少しずつ入れ、脚でしっかりと踏み込んで練り上げる。

フネの中にすべての材料を入れる。
土の粘着性を増すため、望月さんが事前に藁を水に浸して発酵させたものも混ぜる。
それは、手に載せると牡丹餅のような感触で、嫌な匂いはせずに、草の匂いがした。

水を入れようとしてフネにホースが届かないと、参加者の中に竹細工の技術を持った方が、
その場で竹を半分に割き、水を流す樋を作った。
集まった人の知恵や工夫で、その場にあるものを使って柔軟に対応していく。
それは昔から続いていた今では失われつつある、暮らしの形ではないだろうか。

参加者はフネの中に入って脚で踏み込こんで練る。
中には裸足で踏むという果敢な人もいた。
弾力のある冷たい土はたやすく混ぜられることを拒否するような硬さで、思うような動きができず、苦戦する。
力強く踏み込む者、ツイストする者、ゆっくりと進む者とそれぞれのスタイルで土と向き合う。

土を踏みながら、
「歌があるといいね。きつい労働でも楽しく出来そうだね。」
と、みんなで話していると、その中の一人が歌い始めた。
優しい歌声に合わせて、体を動かしていくと、自然と輪になってフネの中を踏みながら回る
気分が高揚してくるのが分かる。
リズムが生まれ、みんなのエネルギーが一つになって、土が練り上げられていくような気がした。
みんなで一つの労働を共同するということは、連帯感だけでなく、喜びも生まれると感じた。

次回のワークショップで、今回作った土を用いて荒壁塗りしていくのだが、それに参加できない人には小さな壁の模型で壁塗り体験。
練った土を盛り鏝(こて)でのばす。
小さな枠の中での動きは難しそうに見えるが、みなさん上手に仕上がる。

最後に使った道具類に付いた土を洗い流し、落ちている藁や土を掃き、場を元のように整えて、ワークショップは終了した。

土祭2021レポーター 横溝夕子    益子参考館円座(荒壁塗りワークショッ
プ)につづく。

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