「益子の原土を継ぐ」染織家 宮澤 美ち子さん

益子で採れる原土を用いて陶芸家・染織家・日本画家・左官、24名の作家たちが、
新しい表現に挑戦しています。
益子の原土「北郷谷黄土」「新福寺桜土」「大津沢ボクリ土」の3種類を使用し制作。
作品は、土祭期間中、展示会場のひとつとなる、陶芸メッセ内 旧濱田邸で、展示します。
24名の作家の、作品への想いを紹介します。

染織家 宮澤 美ち子さんの、作品への想いを紹介します。 

宮澤美ち子

宮澤さんの細工場は北益子地区にあります。
玄関を出れば田んぼが広がり、細工場の後ろには、自然がいっぱいの林。
庭には、染められた布が、ひらひらとはためていました。

「私は散歩の最中、植物をよく拾ってくるのです。
これはサルノコシカケ、こっちはオトギリソウ。
オトギリソウは、焼酎に付けて、切り傷の薬として使うんですよ。
変わったカタチのきのこや、美しい花など、家に連れて帰ってくるのが楽しみなのです。
生活を豊かにしてくれるだけではなく、作品になったり、
作品のアイディアが湧いたりします。」
そう言って、手作りの梅の酵素ジュースを出してくださいました。

歩きながら、桑の実、かやの実、クルミ、栗などを拾ってくるそうです。
食べられるところは食べてから、
また、果実は、果実酒を作ってから、残った葉などで草木染めをする。
四季の移ろいを楽しみ、自然とともに作品作りをしている宮澤さんの部屋には、
ドライフラワー、木のツルなどが置かれてありました。

宮澤美ち子さん

「土祭では、3種類の土で、1m四方の包布、いわゆる風呂敷を染めます。
包む布を染めるということは、今までやっていた仕事で、
1枚の布ということに、こだわっています。
同じ工程で染めても、人によって染まり方が違う。私なりの表現をしたいです。
原土は3種類なので、私の作品も3種類にして、箱を包んで展示する予定です。
布を泥で染めるということで、1番の課題は、色を定着させることです。
左官屋さんは、壁に定着させる為に、何か、のり材となる材料を使用しますよね。
染色でも、色を定着させるのに、のり材を使用するのですが、
にかわ、漆、豆汁、バインダーという定着剤、いろんなのを試しています。
自然の土を染めるのですから、のり材も自然の材料を、使っていこうと思っています。」

服に手をやり、
「自然のもので染める、定着させるということは、色が退色していきます。
現在の洋服は、洗濯しても色が変わらないものばかりですね。
それはそれとして、色が褪せるという自然な変化を、楽しむ。
褪せてしまったら、また染める、その手間も楽しむ。
褪せたら染めるということも、自然なことですよね。」
話した後に、宮澤さんは、箱を開きました。

「陶芸家の若杉集さんと一緒に、原土の採掘に行った時、
10種類くらいの、色様々な原土に出会いました。
土を乳鉢で擦って、色ごとに分けてみたら、こんなに美しい色が出たんですよ。
大島の泥染めというのがあるのですが、あれは泥で染めるのではなく、
泥に入れて、化学反応をさせているので、土の色ではないのです。
天然の染色という点では同じですが、化学反応ではない、本当の土の色。
せっかく、益子にいろんな原土があるのですから、そのままの色を出したいのです。
この土の色を出せたら・・・」

益子の原土を継ぐ 宮澤美ち子さん

テーブルにちょこんと置かれた陶の置物。
手に取ってみると、
「それは、近所の田んぼの土から、私が鳥の置物を作ってみたんですよ。
以前の話ですが、田んぼを重機で土を掘っていた方がいて、
青い土をみつけて、とても美しいと思い、土をもらってきたのです。
青い土、これを焼いたらどうのだろうと思って、
20個の鳥を作ってみました。
野焼きをしたみたら、3つ以外は割れてしまいました。
今回、原土で染めるということは、初めてですが、
原土で何か作るということは、この鳥で経験していたのですよ。」

3

「実は、土が面白いって思ったのは、1回目の土祭で見た光る泥団子がきっかけです。
うちは焼き物屋だったので、焼き上がった器などは見ていました。
でも、土、そのものは見ていなかった・・・
改めて、益子に、こんなに良い土があるのだと知ったのです。
光る泥団子は、焼かないのに、大理石のように光って、
色がいろいろあって、土って、面白いですね。
1回目、2回目の土祭は、面白いイベントだなと思って、遊びに行っていたんですよ。
若い人達が元気いっぱいで、パワーがあって、いろんな参加者がいて。
そして、いろんな作家が展示していていたのが頼もしく、
こういう発表する場があるのはいいな、作家として参加したいなと思っていました。
3回目は作家として、参加できるのが楽しみです。」
庭へ出て、かけてある布を見つめました。

最後の、宮澤さんの言葉。
「風土を読み解くつどいという、町のことを知る集まりがありましたよね。
参加してみて、益子の歴史や、土地名の意味を初めて知ることができ、
新鮮でしたし、興味がわいてきました。
前回の土祭で、作品が展示されてあった場所の中には、知らない土地もありました。
知らない土地名を知り、実際に、その土地を訪れることができました。
土祭がなければ、他の地域に、目がいかなかったと思います。
子供から大人まで、益子の成り立ちを、地域を知る。
ずっと、続けばいいなと思います。」

庭の真ん中で、布を見て笑う宮澤さん。
自然に逆らうことなく、自然にゆだねて、
木の葉も、優しい色合いの布も、揺れていました。

(土祭広報チーム 仲野 沙登美)

 

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