「益子の原土を継ぐ」陶芸家 近藤 康弘さん

益子で採れる原土を用いて陶芸家・染織家・日本画家・左官、24名の作家たちが、
新しい表現に挑戦しています。
益子の原土「北郷谷黄土」「新福寺桜土」「大津沢ボクリ土」の3種類を使用し制作。
作品は、土祭期間中、展示会場のひとつとなる、陶芸メッセ内 旧濱田邸で、展示します。
24名の作家の、作品への想いを紹介します。

陶芸家 近藤 康弘さんの、作品への想いを紹介します。

 近藤さんの細工場は、大平地区にあり、車を走らせると、どんどん家が少なくなり、
その代わり、山深さが濃くなっていきます。
大きな樹木に守られるように、ひっそりと細工場が建っていました。
玄関を入ると、近藤さんが活けた草花がお出迎え。
庭に咲いている草花を飾って、愛でているそうです。
「花や庭木に、はまってしまいました。
花が大きかったり、鮮やかな色の花は、
熱帯地方の外国の花が多いですが、私は、野の花が好きなんです。
日本古来からある花は、戦国時代に、武将が見るのを楽しんでいた花だったりしたかもと思うと、
すっごくワクワクするんですよね。」
おそらく取材のあるなしに関係なく、
近藤さん1人でも、花を活けているのが感じられます。

近藤さんは、11年前に、益子へ移り住みました。
「大阪出身私は、益子に来てある窯元で修行していたのですが、それだけでは食べていけないので、
窯元の休みの日は、窯作りの職人さんや、大工仕事の手伝いをしたりしていました。
窯元で3年修行した後、独立資金を貯めるのに、1年間派遣の仕事もしました。
貯金をして、ようやく独立することができました。」

 珈琲豆を、手動のミルで挽き、1杯ずつドリップしながら、近藤さんは作品作りの話へ。
「先日、道祖土地区で開催された、風土を読み解くという町民の話し合いに参加してきました。
昔の里山はハダシで歩けるくらいキレイだったと、町民の方が言っていました。
その話は、修行先の親方(道祖土在住)からも、聞いていて、頭にずっとあったんですね。
ガスがなかったから、それぞれの家庭で、かまどがあり、
子供達は、山に入り薪を拾うから、山がキレイになる。
なんで、山がキレイなのか、腑に落ちたのです。
生活の中で、山を、薪を大事にしていたのですね。
町民の皆さんの話から、土祭の作品へのアイディアがわきました。

土祭では、かまどを作ります。
現在の人達は、私も含めて、ガスやIHがあたり前にあると思っています。
かまどや囲炉裏という熱源を、古臭いと葬られてしまったその良さを、
見直すきっかけになればと思います。
今の家庭では、木を拾って、火を焚くと、煙の問題がありますよね。
煙の問題が解消される場所で、好きなように焚けるように、移動式のかまどにしようと。
3種類の原土の1種類を、レンガに。
もう1種類は、かまどの表面を覆うものに。
最後の1種類は、土鍋に。
薪の火だけで土鍋を使うなら、益子の土でも大丈夫なんですよ。
土鍋を作る原土に、極力入れないようしますが、コージライトかペタライトなど、
最低限の素材を入れて、作ろうと思っています。
持ち運びできるよう、軽量化を考え、もみ殻など入れようと考えています。
今回、小さなレンガも作るのですが、これは、いつか自分の窯作りの土台というか、
勉強になると思って、チャレンジします。」

淹れてくれた珈琲は、丁寧に暮らす近藤さんを表しているかのように、
深い、優しい味わいがしました。

 こくりと珈琲を飲んで、近藤さんは、土祭の話へ。
「勝手な思い込みですが、土祭を起点に、益子に来るお客様が変わっていったように感じます。
焼き物を買いに来るお客様だったのに、作り手の意識の高い、
全国の人が注目してくれるようになったと思うんです。
土と共にある、この土地の魅力を打ち出したと思う。
自分は大阪から来たよそ者ですが、だからこそ、原土を使うべきだと思っています。
実際に、原土を掘ったり自分の作品でも使用していますし、今後も使っていきます。」

窯の周りには、ひしゃくなどの道具が、整然と並べられてあり、
窯を、道具を大事にされているのが伝わってきます。

庭の植物を見せていただき植物の説明をしながら、
近藤さんはカマで、草刈りを始めました。

 「電動で、バーッと刈ると楽なんですけどね。
どうしてもカマで、手で押さえて、刈りたいのですよ。
ちょっと、この花を見てください。
この花は、陶芸販売店の方にいただいたのですが、
そこで咲いていた時は、こういう紫色じゃなかったんですよ。
土や育つ環境で、花の色が変わる。これも、花の魅力。
この魅力にとりつかれてしまいました。」

草花にとまったトンボ。
悠然と泳ぐメダカ。
ひっそりと咲く、日本古来の草花。
樹木に、草花に囲まれながら、近藤さんは、
静かにろくろをひいていることでしょう。
 

(土祭広報チーム  仲野 沙登美)

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