「益子の原土を継ぐ」陶芸家 岩村 吉景さん

益子で採れる原土を用いて陶芸家・染織家・日本画家・左官、24名の作家たちが、
新しい表現に挑戦しています。
益子の原土「北郷谷黄土」「新福寺桜土」「大津沢ボクリ土」の3種類を使用し制作。
作品は、土祭期間中、展示会場のひとつとなる、陶芸メッセ内 旧濱田邸で、展示します。
24名の作家の、作品への想いを紹介します。

陶芸家 岩村 吉景さんの、作品への想いを紹介します。 

益子の原土を継ぐ 岩村吉景さん

岩村さんの細工場は、道祖土地区にあります。
油断するとサイドミラーが、木に当たってしまうそうなくらい細い1本道。
対向車が来たら、どうしようと思いながら車を進めていきます。
どんどん緑色が濃くなっていき、この道で合っているのだろうかと不安になっていると、
岩村150メートル先という、小さな木の看板を見つけ、安堵しました。

岩村さんは、絵本作家いわむらかずおさんの息子さんで、
絵本「14ひきのシリーズ」のモデルとなっているのが、この雑木林。
ふと木の葉に目をやると、昆虫が止まっていたり、
ふわふわと蝶が飛んでいたり、14ひきシリーズの絵本の世界が広がっていました。
益子の原土を継ぐ 岩村吉景さん

岩村さんはろくろを回し、椿の葉で表面をなでました。
椿の葉をあてられたところは、表面の凹凸がなくなっていき、鈍く光っています。
「今、私は火鉢を作っています。北郷谷黄土と真福寺桜土は100%原土で、
大津沢ボクリ土には、割れ防止に信楽の土を2割足して、計3点作ります。
展示する場所は、旧濱田邸ということで、その場所に溶け込む作品を作ろうと思いました。
昔の古い家にいるイメージをしたら、火鉢がいいかなと。
低温度で焼き締めて、あまい感じを狙っています。
表面をなめらかにするのに、プラスチックや金属なども使用できますが、
椿の葉を使うと、表面がつるっとなって、優しい感じに仕上がるんですよ。」
岩村さんの座っている脇には、何枚も椿の葉がありました。
益子の原土を継ぐ 岩村吉景さん

「益子の原土を研究する原土会というのがあり、その会に参加してから、
原土を使った作品を作るようになりました。
山へ行き、掘って、手作業で乾燥をさせ、水簸していく。
原土から粘土を作るようになって、3、4年経ったでしょうか。
最初は慣れませんでしたが、今は、粘土にする工程が苦にならなくなってきました。
粘土を買ってきて、できている粘土から作るよりは、粘土を作る楽しみ、
形にする楽しみ、そして、焼き上がる楽しみができ、楽しみが増えました。
料理と似ているところがあります。
素材選びに楽しみ、作って、食べるのも楽しい。
そう想像してもらうと、わかりやすいでしょうか。」

土祭に作品を出すきっかけを伺うと、
「第1回と第2回の土祭は、なにも参加しませんでした。
今回は、陶芸家の若杉集さんに声をかけていただき、若杉さんがいたからというのが、
参加の理由です。若杉さんは、大きな存在です。
益子の原土を使い始めたのも、若杉さんからのアドバイスでした。
益子の土で作ることに、こだわりができました。」
石膏型がいくつも置いてあり、中には乾燥中の粘土がありました。
粘土として使えるように、水分を飛ばしているところです。

益子の原土を継ぐ 岩村吉景さん
細工場の外へ出ると、夕暮れ時で、ヒグラシの鳴き声に包まれていました。
暑さがやわらぎ、少し肌寒く感じられ、ヒグラシの大合唱は夏の終わりを告げているかのようです。
深呼吸を何度かすると、森の匂いがいっぱいに広がりました。
草木がざわめきあっている中、岩村さんは外に出してあった作品を見つめていました。

(土祭広報チーム 仲野 沙登美)

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