「益子の原土を継ぐ」陶芸家 川崎 萌さん

益子で採れる原土を用いて陶芸家・染織家・日本画家・左官、24名の作家たちが、
新しい表現に挑戦しています。
益子の原土「北郷谷黄土」「新福寺桜土」「大津沢ボクリ土」の3種類を使用し制作。
作品は、土祭期間中、展示会場のひとつとなる、陶芸メッセ内 旧濱田邸で、展示します。
24名の作家の、作品への想いを紹介します。

陶芸家 川崎 萌さんの、作品への想いを紹介します。 
益子の原土を継ぐ 川崎萌さん
「私は、鹿児島県屋久島出身で、鹿児島市の窯業指導所に3年間いました。
九州には窯業の仕事はないような気がして、島へ帰って独立をするつもりでいたんですね。
まず、独立する前に、外を見てこようと思いたち、九州だけではなく、
もっと遠いところと考えた時、益子にも行ってみようと思いました。
益子へ来て、窯元で賃引きの仕事をしていたんですよ。
賃引きというのは、ろくろでひいて、焼く手前まで完成させて、
素地ひとついくらという仕事です。
昔から職人に憧れていて、職人ってかっこいいと思っていて、
ろくろの職人になれたらと思っていたのです。
1分で1個ひくとか、スピードにこだわったりもしましたね。
速くひけるからなんだ?と人に言われたりもしましたが、速くひいた先には、
速くひける人にしかわからない世界があると思います。
スポーツ選手で、すっごく速く走った人にしかわからない世界、
そこにたどり着いた人が見えるもの、そこまでいかないとわからないですよね。
自分の感覚というか、当時はプライドを持って、ろくろをひいていました。
賃引きの仕事で、自活もでき、自信がつきました。」

川崎さんの細工場は、小宅地区にあり、雑木林の中にひっそりと建っています。
庭にあるヤマボウシの葉っぱを手に取り、
「屋久島は、コントラストが強くて、美しい自然がいっぱいで、
帰りたい気持ちになる時もあります。」
ヤマボウシの実を1つ取り、手のひらに乗せてくれました。
赤くて、コロンと丸いヤマボウシの実。
屋久島の植物は、色鮮やかで、そして、空は、もっと青いのでしょうか。

益子の原土を継ぐ 川崎萌さん

川崎さんの作品に用いられている印花(半乾きの素地に押し付けて、模様を刻むもの)
印花を購入される方もいますが、川崎さんは大きさが様々な印花を、手作りされています。
印花は、素焼きではもろいので、本焼きして使っているそうです。

「この印花のモチーフは、学生の時から使っています。
同じ印花を使って、連続させたり、色々な模様にするのが好きで、
手毬の模様や、蝶にしたりしています。
釉薬できっちり色を出すより、土祭では、土そのものの美しさをだしたいです。
作品を通して、土の、自然なままの美しさを感じてもらえたらと思っています。
灯油窯で焼き締めて、原土を見せようと思っています。
釉薬と違って、焼き締めだとやれる仕事が増えるんですよ。
今回は、単身で150目で濾して、細かくして使いました。
細かいので、石っぽく焼けるので気に入っています。
原土は、ろくろで一気に大物をひくのは難しいですね。」

益子の原土を継ぐ 川崎萌さん

壷に、ひとつ、ひとつ、丁寧に印花を押してながら、
「2年前に技術支援という形で、カンボジアに行ったことを思い出しました。
釉薬陶器を作るプロジェクトに参加したのです。
村人は鉢、米びつとかを作って、野焼きして売っていました。
素焼きなので、強度の面や、使用にしても限りがあります。
村人が作っていた鉢は、素朴な美しさ、失われていく美しさを感じました。
今回の仕事も、近いものがあると思っています。
原土は、他の土と混ぜて作ったりはしていましたが、
原土だけを使って、時間をかけて濾して焼き締めてという仕事は、なかなかできない。
原土で作るって、サバイバルな感じがします。
どこへ行っても、陶芸ができるんですよ!
荒野にぽんと置かれても、陶芸ができる。すごいですよね。
原土で作るというのは、自分の経験的にもよかった。
今までは経験がなかったけど、益子の土地がより身近に感じられるようになったような気がします。
出来も、色も良くて、原土の仕上がりが好きです。」
サバイバルという言葉に、2人でふふっと笑いました。

益子の原土を継ぐ 川崎萌さん

「今回の展示は、陶芸家の若杉集さんに誘われて、参加しました。
こういう機会に誘っていただいて、ありがたかったです。
益子にいるから、やれる仕事だと感じられました。
やらなくちゃわからなかったことです。
普段の仕事とは、違うベクトルの仕事ですが、今後も続けていきたいと思っています。」

原土を150目でふるって、細かい粉から、なめらかで肌障りの良いの粘土に。
この原土に出会ったことで、川崎さんの作品作りの幅は、
もっともっと広がっていくことと思います。

(土祭広報チーム 仲野 沙登美)

 

 

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