風景の発見 前沢町有林の風景観察ツアー |「あるもの」を探すこと
「地元学」という言葉があります。
これは、熊本県水俣市や東北地方での地域づくりの中から生まれた手法のことで、「『ないものねだり』ではなく、もともとその地域に『あるもの』を活かして地域づくりに役立てていく」という考え方です。
その第一歩は、「地域にあるもの」を改めて見直してみることです。言い換えれば、「未知ノ日常」を「アラワ」にすることでしょう。
風景観察ツアーの第3回目は、参加者が講師のお話を聞くというこれまでの2回と違い、参加者が歩きながら自分たちで「ここ(地域)にあるものを探す」という形のプログラムでした。
集合場所の道の駅から移動し、まずは生田目(なばため)地区の公民館で、講師の石川初さん(慶應義塾大学)と伊藤暁(さとる)さん(東洋大学)から今日のプログラムについての説明を受けました。
【石川さん(左)と伊藤さん(右)】
それによると、今回はコースを歩くだけではなく、その途中で参加者一人一人が見つけたものや気になったことをカードに記録していく、とのこと。なんだか楽しそうですね。
【一人一人にカードが配られます】
興味をひかれたものを拾って入れる袋も配られ、いよいよ出発です。
きれいに晴れた空の下、里山につけられた遊歩道を歩いていきます。
ひたすら歩くのではなくたまに立ち止まってあたりを見渡すと、背後に里の景色が広がっていたり、
足元の花が気になったりと、
色々なことが見えてきます。
気づいたことを書いたカードはスタッフの学生さんに渡し、場所を記録していってもらいました。
今回はお手伝いの学生さんがたくさん来られていましたが、中にはこんな役目の方も。
【2時間ほどのコースなので、糖分補給も大切ですね】
天候に恵まれたことや変化にとんだ環境を通るルート、そしてなによりこうしたスタッフの皆さんのおかげもあって、ゴールまでの道のりは終始なごやかな雰囲気でした。
【前沢山からの景色】
【ヒノキ林の中の道】
2時間ほど歩いて無事に皆さんゴール。今回のプログラムではここからが大切なところです。参加者それぞれが歩きながら見つけた「気になるポイントのカード」「集めてきたもの」をみんなで共有していきます。集めたものはきれいに並べて全体が一覧できるようにし、
【木の実や花など色々なものが集まりました】
カードの方は、あらかじめ用意されていた立体地図にクリップで立てて行きました。
ルートがびっしり埋まるほどたくさんの情報が立てられ、それとともに参加された方々がどこでどんな風に感じたのかも見えてきました。
こうすることで、景色が良く見えるところ、歩くと気持ちいい場所、滑りやすい下り坂など、地図を見ただけではわからないコースのキャラクターが浮かび上がってきます。
こうして得られた情報は、もともと地域にあるもの、いわば「未知の日常」です。それがこのプログラムによって「アラワレ」たと言えるでしょう。
このツアーはこの情報の共有でおしまいとなりましたが、最後に石川さんからは、「せっかく道を作っても、ただ切り拓いただけでそこを使い続けなければ、また草が生えてなくなってしまう。だから使い続けていくことが大切です」というお話がありました。
これは今回見つけた「地域にあるもの」についても同様だと感じます。
ただ見つけるだけではなく、それをどう活かし実際に役立てていくか、維持していくかが大事なことです。再び未知のものになってしまわないように。
地元学の提唱者の一人、民族研究家の結城登美雄さんは「いたずらに格差を嘆き、都市と比べて『ないものねだり』の愚痴をこぼすより、この土地を楽しく生きるための『あるもの探し』」がこれからの地域の在り方にとって大切とされています。
どこかで見たような景色、他でも手に入るもの、そうしたものを求めるのではなく、この町に住む人々が、もともとこの土地が持つ価値に気づける感性を持ち、さらにそれを維持していくことにどれだけかかわっていこうと思うかが、これからの益子町の在り方につながってくるのでは、と感じたプログラムでした。
(土祭2021レポーター:鈴木利典)