「祭り」としての映画館―「太平座」で観る「ASAHIZA、人間はどこへ行く」

―震災後に生まれた「祭り」―

益子町の仲間とイベントを企画するHUG❤Cine益子を立ち上げたのは2012年。
東日本大震災の翌年だ。

2011年の震災と原発事故に、メンバーのみんなが大きな影響を受けた。東北に家族や友人がいたり、農業を営んでいたり、子育ての真最中だったりと、それぞれ状況は違うけれど、私個人の話をすれば、当時は目の前の現実をどう捉えたら良いのか、
どんな選択をすればいいのか分からなかった。起きたことのあまりの大きさに、圧倒されていた。

それでも、東北各地に足を運んだり、この国の様々な問題について学んだりするなかで、少しずつ、ぼんやりとだけれども、自分なりの手がかりというか、関わり方みたいなものが見えてきた。

まずは足元を見つめること、隣にいる人と話をすること、地域の人たちと関わること。

観念的にならずに具体的に動いてみること。
そうやってなんとなく身近な仲間と集まっているうちに、カフェを経営している益子の友人の協力で、小さなドキュメンタリー上映会を開催することが決まった。やってみたら楽しくて、少しずつ仲間が増え、今後も続けていこうと付けた名前がHUG❤Cine益子だ。

映画上映

<写真上|音楽家、大友良英さんをゲストに映画、音楽のイベントを開催>
<写真下| 同イベントにて、音遊びに興じる参加者の皆さん>OTOTOMO×大友良英㈪

当初は、シネマと益子をかけて「シネましこ」は?という案もあったけれど、あまりにダサすぎるのと、「シネ!ましこ」は音的にマズいぞ、と断念。それじゃ、シネをアルファベットにして、「育む」と「ハグ!」をかけてHUGを頭に付けるか?ということで、他に名案も浮かばず、強引に❤を押し込んで決定。

それが映画や音楽やトークイベントなどを開催するごとに、ああ、育むってこういうことなんだな・・と、何のバックアップもない私たちのイベントに賛同し、惜しみなく協力してくれたゲストの方々や映写技師さん、ボランティアスタッフ、そして、参加してくれたお客さんたちと共に過ごすなかで、改めて気づかされるようになった。

普段はそれぞれの場所で、それぞれの暮らしを営んでいる色んな人たちが集い、多彩な「ことば」に触れられる場。日常のなかでは縁遠く思えるようなテーマを身近に感じたり、分からないんだけど、どう思う?と相談し合えたり、新たな気づきにハッとさせられたり、ただ単純にみんなで楽しいひとときを過ごせたり。

昔、まちなかにあった映画館にも、同じような役割があったのかもしれない。そして、震災後の「非日常」のなかで、私たちがイベントを企画し始めたのは、そのような場を人一倍求めていたからなのかもしれない。ひとときの「お祭り」。喜怒哀楽を共にする時間。世界を抱きしめられる場所。

今回、土祭事務局から「復活!太平座 まちなか映画館」の企画で、上映会を依頼されたとき、点と点が繋がっていく感じがした。土祭の副題となっている「この土地に生きることの祭り」―それを私たちは必要としていたのかもしれない、と。

慣れ親しんでいた風景が、全く別のものとして目の前に現れたとき、否応なしに突きつけられた沢山の疑問符。それらを1つ1つ拾い上げて、今生きている場所を、旅人が初めてその土地を訪れたかのように、目を開いて、耳を澄ませて、感じてみる―そんな体験に繋げられたら。どこか懐かしくて、なんだかワクワクしちゃうような。一人では無理だけど、色んな人の生活の知恵や創造力を借りれば、きっと、より豊かに、より素敵に生きられる。今もそんな想いで、細々と活動を続けている。

ハグシネ
<想田和弘監督「選挙2」上映会&トークイベント開催前にメンバーと>

―非日常のなかで日常を、撮る―

23日に上映する「ASAHIZA、人間はどこへ行く」は、福島県南相馬に大正12年に開館した南相馬の古い映画館と、そこに集った人たちの記憶を辿る物語だ。

実は、この映画は、地域の住民たちと共にワークショップ形式で製作されたもの。2012年の秋に撮影が始まり1年後に完成。その間、藤井監督は南相馬に通いながら、撮影のアドバイスをしていたという。

「監督を依頼された時点で、制作された映像をその舞台となった朝日座で上映するということは決まっていました。撮影された場所で、撮影された人々と共に鑑賞する映画を作ってきたフランスの映像人類学者ジャン・ルーシュの影響を僕は受けていますが、自分たちの生活の中にあった映画館や町の記憶を、自分たちで作る映画を通して見つめ直す。同時にその地域だけの映画になってしまわないように考えました。〈遠い町の物語〉にならないようにするにはどうしたらいいかと、その方法論を考えるのが監督の仕事でした。」

「復活!太平座」で、復活した「朝日座」を観る。映画館で「映画館」を観る。町や人との繋がりを今改めて考える上でも、
これは面白そう!ということで、とんとん拍子に話が進んだ。

藤井さんは、昨年の「OTOTOMO×大友良英」で上映したドキュメンタリー、「プロジェクトFUKUSHIMA!」の監督でもあり、今回の映画でも、大友さんが音楽を手掛けている。「プロジェクトFUKUSHIMA!」を観たときに感じた撮影対象との独特な距離感は、この作品の中でも健在だ。安易な意味づけや感傷をそぎ落とした余白のある映像と音楽に、観る側の想像が掻き立てられる。

ASAHIZAメイン中
『ASAHIZA  人間は、どこへ行く』(藤井光監督 2013年)より

 

藤井さんいわく、「ASAHIZA」は奇妙な映画。何故奇妙なのか。
それは、震災以降語られてきた「被災地」としての「南相馬」が、少なくとも画面の中心には描かれていないからだ。

「原発事故を受けてこの地域の人々は〈被災者〉として描かれ続けてきました。被災地のイメージで覆い尽くされてしまった土地だと言えます。逆説的に言えば、メディアなり映像文化が、この土地の人々を〈被災者〉として固定化しているとも言えます。前作の『プロジェクトFUKUSHIMA!』を撮った時に、カメラの中に記録された人々の笑顔や冗談を映画の中でどう扱えばいいかわからず大半をカットしました。それは〈フクシマの物語〉として観客が期待するであろう〈リアル〉に矛盾すると考えたからです。
 当時の判断が間違っていたとは思いませんが、違和感も残りました。映画『ASAHIZA』に登場する方たちを美しいと感じられるのは、そこで描かれた人々が〈被災者〉のイメージから開放されたからなのかもしれません。
朝日座のことを話し始めるとみなさんニコニコする(笑)。それで、今回の撮影中にプロデューサーの立木さんに言ったんです。非日常であろうと日常を生きる「普通の人々」を描かねばならない、この明るさというか、柔らかなものを表現することが、原子力発電所の事故によっていろんなものが破壊されていく現実に対する報復になるのではないかって。」

この公式サイトに掲載されている藤井監督の言葉を実際に映像で体感してほしい。

トークセッションでは、ご本人をお招きして、作品の撮影秘話や仕掛け、コミュニティとしての映画館、地方都市の在り方など、震災直後から東北各地で映像を撮影し続けてきた監督ならではの視点に迫りつつ、会場の皆さんとの時間を楽しめたらと思っています。ご質問やご感想なども是非!トークセッション後は、藤井さんを交えたカフェタイムもあるので、ふるってご参加ください。

映画公式サイト:http://www.asahiza.jp/
上映会の詳細・ご予約はFBページで:https://www.facebook.com/events/1194724967220318/

         (「まちなか映画館 太平座」企画チーム HUG❤Cine益子 小野悦子)

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