2009年9月19日(土)新月〜10月4日(日)満月
栃木県益子町 益子本通りおよび町内各所
2009年、栃木県益子町に新しい祭りが生まれました。
里山に抱かれて田畑と家々が点在する、2万5000人が暮らす町。
益子焼で知られる、農業のさかんな土地。
ここで、足下に広がる「土」という原点に立ち返り、
健やかで美しい暮らしへ向かっていこう。
そんな願いを込めて、この祭りは、会場設営から運営まで、
町民たちが中心となってつくりあげられました。
9月19日早朝。太平神社。鈴木昭男さんが吹く塤(つちぶえ)が境内にこだまして、土祭は幕を開けました。このときの塤の音をモチーフに、川崎義博さんが音のインスタレーションを制作。会期中、同神社、平野邸米蔵の庭、日下田藍染工房で流された音は、土祭の時間を清浄な空気で満たしました。
益子本通りには、大正時代から昭和30年代の益子を撮影した写真パネルが掲げられました。この地で土とともに生きてきた人々の姿とかつての景色。そこに私たちの今の暮らしが交差します。
晴天の日も嵐の日も乾く日も凍る日も。年月を積み重ねてきた益子の土でできた土舞台。左官・挟土秀平さんの指揮のもと、町内外の人々の手でこつこつと層を重ねた、土祭の象徴です。
事務所として使われていた後、空き家になっていた100年前の木造の建物を、職人や作家、ボランティアたちが力を合わせて改装。ここで現代のアーティストたちが土と向き合いました。仲田智さんは益子の原土2トンと釉薬のテストピースを使って。岩田智子さんは地表のひびわれからインスピレーションを得て。塙裕子さんは、金彩を用いた陶土のオブジェを。大田高充さんは、益子で採集した田の土を無数のボトルに入れて吊しました。
塤の音に導かれて門をくぐった先、外壁に石を張った堂々とした米蔵で、生井亮司さんの作品が展示されました。麻布の上に漆の樹液を重ね、黄土を焼いた砥の粉で磨く。奈良時代から続く乾漆は、土を媒介にした表現技法です。
かつて酒蔵があった空き地にずらりと並べられた「益子の土人形」。益子町内の窯元から削り土をもらって再生し、KINTAさんの指導のもと、大人も子どもも、のべ500人が手を動かして生み出した3000体です。脇道、水路のほとり、民家の塀、草っぱらなど、会場のあちこちにも顔を見せて、土祭を見守ってくれているようでした。
東京千石の左官・榎本新吉さんが大津磨きの技術を応用して編み出した泥団子は、藁を混ぜた土で芯を作り、石灰を加えた土を薄く重ねて、ていねいに磨き上げるというものです。陶芸家の若杉集さんが採集した益子の11種類の土から、11通りの光が生まれました。自分でつくるワークショップは子どもたちに大人気。連日にぎわいを見せました。やはりボランティアたちが協力しあって改修した、元むらた民芸店が会場となりました。
後に民藝運動の中心となる濱田庄司が益子に移住し、注目したのをきっかけに、益子焼は一躍名を知られました。その濱田が感銘を受けた、当時のやきものを探った展覧会が「民藝以前」です。農業にいそしみながら土をこね、窯に火を入れ続けた無名の陶工たちがつくった暮らしの器、それは力に満ちたものでした。岩下太平商店と益子陶芸美術館で開催されました。
飯田邸板蔵の階段を上がっていった屋根裏で上映されたのは、「土の人 3Portraits」。益子で唯一の手濾し粘土職人となった吉沢仁、益子の土と向き合いながら50年以上も轆轤を回し続けた陶芸家の故・成井恒雄、そして高舘山をはじめとする益子の自然観察を続ける陶芸家、若杉集。3人の姿や声から益子の風土が伝わってきます。撮影・編集・監督は池田泰教。聞き手・録音・サウンドデザインはウエヤマトモコ。
現代のアーティスト、益子のお囃子に太々神楽……ジャンルは違えど、土舞台にふさわしいライブが、夜ごとふくらむ月の下で開かれました。そして10月4日千秋楽。高谷秀司さんのギターと山本愛香さんのパーカッションで場が脈を打ち、暗闇が迫るころ。大地を潤すような朝崎郁恵さんの島唄が響き渡りました。フィナーレでは雲から顔を出した満月が天頂で輝いて、2009年の土祭は幕を閉じたのです。
撮影 村田昇 矢野津々美 益子町役場
【作品展示】
土舞台 左官/挾土秀平 設計/日置拓人 イメージコンセプト/吉谷博光
陶の里、益子の原風景 写真提供/岩下太平商店 木村克己 山水みながわ 馬場浩史
土・益子、それぞれの表現 アート/仲田智 岩田智子 塙裕子 大田高充
映像・益子人 制作/文星芸術大学写真部ほか学生有志
土の人 3Portraits 制作/池田泰教 ウエヤマトモコ 出演/若杉集 吉沢仁 成井恒雄
民藝以前 出品協力/岩下卓磨 岩下文隆 大塚久男 加藤庄一 高木正男 宮島実 山口孟
益子の土人形 製作および指導/KINTA 大塚一弘 見目木実
制作協力/文星芸術大学陶芸専攻学生
聖音のある空間 サウンド・インスタレーション/川崎義博
榎本新吉流 光る泥団子 制作・指導/鈴木真由美 文星芸術大学陶芸専攻学生
会場構成/小塙芳秀 藤原彩人 藤原愛 左官/小沼充
乾漆彫刻 アート/生井亮司
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【イベント】
幕開けの儀 塤奉納/鈴木昭男
土音楽祭 出演/天人疾風の会 WARAKU 五人衆 鳴神 石田雄士・さえ Joysmile 遠藤晶美+CHAUTARI 後藤まさる いろのみ aspidistrafly haruka nakamura cobi益子のお囃子 太々神楽
千秋楽コンサート 出演/高谷秀司 山本愛香 朝崎郁恵
益子音頭 先導/益子音頭を踊ろう会
土セミナー ゲスト/挾土秀平 鈴木昭男 平谷けいこ 杜ひとみ 内田美智子 四井真治
土会議 パネリスト/ナガオカケンメイ 日野明子 大塚朋之 四井真治 塩見直紀 山崎光男 コーディネーター/山崎亮
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【飲食&市場ほか】
益子朝市 地元農家による野菜の直販
農村カフェ 夕焼けバー 商工会青年部や住民を中心に、地元飲食店の協力の下、有志が運営
フリンジ 竹テントを設営、「自然の恵みと人の手」をテーマに。フードやスイーツの出店、
本や雑貨、グリーンなどの販売、ワークショップ開催など
協賛店 益子町内をはじめ、近辺の店舗や施設86店が参加。各々で企画を練った
レセプション 案内のほか、藍染め手ぬぐい、Tシャツ「ひじT」、ポストカードなどを販売
キッズアートガイド 地元の子どもたちが案内役になって来場者を案内 講師/王節子
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土祭 Earth Art Festa 2009 in Mashiko
2009年9月19日(土)新月—10月4日(日)満月
栃木県益子町 益子本通りおよび町内各所
ガイドブック付きパスポート 一般¥500 小中高生¥100
主催 益子アートウォーク実行委員会 実行委員長 大塚朋之
共催 益子町・文星芸術大学
企画・運営 土祭プロジェクトチーム
総合プロデュース 馬場浩史
総合アートディレクション 吉谷博光
ストーリーメイキング 武田好史
プランニング 多田君枝・豊永郁代(アイシオール)
グラフィックデザイン 須田将仁(Takuu tuore)
WEBデザインディレクション 永原康史(永原康史事務所)
協同運営統括 山崎亮・西上ありさ(studio-L)
土祭事務局 三宅明男 吉村栄 加藤優子 岡崎エミ 水沼利元 板野修次