土祭、深い根の先まで繋がっている何かと。
「土祭ストア」でもご協力をいただき、ナガオカケンメイ氏にも土祭セミナーで講演していただいた
D&DEPARTMENT PROJECTの『d design travel』 副編集長、空閑理さんよりメッセージをいただきました。
日本各地を飛び回る空閑さんですが、数日間、益子・土祭に滞在し「土祭ストア」で来場者と交流しながら
展示会場巡りを楽しまれました。空閑さんの目にうつった益子、空閑さんが感じた土祭とは?
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土祭の会場には最新の美術館もないし、海外の大物アーティストの出品もありません。
古くから続く神社や器の窯元、商店や民家に、益子に住み暮らす人々や
益子ゆかりの作家の作品が展示されています。
参加する皆が知り合いで、ご近所同士。新月から満月までの二週間、
みんなが空を見上げて、天気を気にしながら、一日、一日がゆっくりと過ぎていきます。
きれいな水。味の濃い野菜。料理を盛りつけるのは、すべて益子でつくられた器。雨にぬれた瓦、土。
月明かりと風の中に響く音楽。夏を越して少し緑色が抜けてきた樹々が、ゆっくりと揺れる。
本当に、美しい土地です。
益子という土地は、陶器市で有名な器の産地だから凄いのではなく、濱田庄司が窯を築いた
民藝運動の中心地だったから価値があるのでもなく(それらはもちろん魅力的なんだけど)、
それよりもずっと前から永く宿り続けている土地の生命力のようなものが、人々を惹き付けているんだなと、
益子を何度も訪れて感じられるようになりました。それを一番強く感じさせてくれるのが、この土祭です。
土地の力に引き寄せられて、月と土、自然と人々が一体に。好きな作家の出品やおしゃれな店、
土祭の高いデザイン性に魅力を感じて益子を訪れた人も、
日が暮れる頃には、この土地の力に気づくことができると思います。
一晩限りだった昨年の前・土祭(実に感動的で、心に沁みました)と異なるのは、二週間に祭期が延びたことで、直接は祭りに関係していない、いわゆる一般の町の人々とのふれあいが多くなりました。
DOORSとD&DEPARTMENTの共同ショップ「土祭ストア」にも多くの地元の人が遊びにきてくれます。
特に多いのがお年寄り、そして子どもたち。
お年寄りは、僕たちを他所ものと知ったうえで、皆こう聞いてくれる。
「益子をどう思いますか?いいところですか?」「もちろん素晴らしいところです」
「そうですか。ゆっくりしてってください」
そういって、益子の昔の風景や歴史のことを、美しさを、ものづくりに注がれた情熱を、
店先で教えてくれたりもして。
そんな話をしている最中で、子どもたちがスタンプをめがけて元気いっぱい飛び込んできたりして。
この土祭では、素晴らしいインスタレーションを各所で見ることができるけれど、
それらをきっかけに、益子という土地の力をより深く知っている、ここで暮らす人々の話を、
それとなく、しかし直接、その目を見ながら聞くこともできる。
たわいもない話の中に真実があって、
何かのお告げみたいに、ひょっと大事なものが目の前に差し出されるような。
そんな体験ができることこそ、何より土祭の醍醐味だと僕は思っています。
土祭では、長く町に住む人々こそ、アーティストであり作品であるといってもいいのかもしれない。
日本中に町おこしのためのアートイベントが増えているが、
それらがついつい置き去りにしてしまう、その土地だけに根付いている風情や人情が、
益子・土祭には確実にあります。
その深い深い根の先まで繫がっている何かと、誰もが触れることができ、
町内外の人々が一つになれる、そんな二週間。
最後の一日だけでも、ぜひ土祭に訪れて、益子を感じてほしい。
僕も最後、できればもう一度駆けつけたいと思っています。
空閑理 くが・おさむ
D&DEPARTMENT PROJECT 『d design travel』副編集長
1983年福岡市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、カイカイキキを経て、2010年D&DEPARTMENTに参加。ナガオカケンメイが編集長を務める47都道府県ごとのトラベルガイド『d design travel』の編集を手がけ、2011年より副編集長。来年2月発売の新刊のため、山口県を取材中。
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