左官の技の一から十

ご好評をいただいている「20 榎本新吉流 光る泥団子」ワークショップ。
2009年の第1回土祭で、左官・榎本新吉さんが開発した左官の技術をご指導いただき開催しました。
その後、地域コミュニティ・ヒジノワで「光る泥団子ワークショップの先生養成講座」を企画運営。
地域の方々の協力を得ながら、養成講座を修了し、20名以上もの先生が誕生、
今回の土祭のワークショップで講師を務めています。
土祭終了後も、先生たちが中心となって、益子町内でワークショップは続けていく予定です。

そんな先生たちの「師」である榎本さんを紹介するメッセージが企画協力の豊永郁代さんから届きました。
榎本新吉さんの言葉、みなさんにもお伝えしたいと思います。

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榎本さんのところには、しょっちゅう誰かが来ています。
榎本家の食卓で近所の行きつけ喫茶店「パック」で、
「ばっかだなー。違うよ。だっめだなー」と叱られても、
なぜかみんなが質問をもってやってきます。

左官・炉壇師。1927年(昭和2)、東京・千石生まれで千石育ち。
本格的な京壁を塗る左官職人として、東京の料亭やお屋敷などで仕事をしていました。
いろんなすったもんだがいやになり55歳で商売を辞めてからも、
全国から集まったの美しい色土を左官材料として提案したり、
また生石灰クリームの特性を生かして、榎本流現代大津磨きを完成させたり。
「商売はやめたけど、左官はやめないよ」の言葉通り、85歳のいままで、
自分の思うまま、人に頼られるまま、材料や工法の開発に夢中になっています。

「榎本新吉流 光る泥団子」ワークショップでみなさんにつくっていただく泥団子は、
榎本さんが開発した左官技術「現代大津磨き」の技術を応用したもの。
「いまの人は基本を知らないね。一から十を知らないから、百で止まっちゃうんだよ。
俺たちは一から十をやっているから、千でも万でも行くんだよ」という榎本さん。
この泥団子には左官の技の一から十が詰まっているかもしれません。

土壁の伝統的な美しさと現代に活きる可能性を知って欲しいという祈りを込めて、
つくりはじめた泥団子。その天然の色土の艶、つるっと堅そうでいながら、
水をすっと吸い込んでみせる土の本性。日本らしい素材、日本人らしい技術。
一度失うと復活させるには相当の労力を要するのが職人の技術、日本の美しさ。
なにを守らなければならないのか、守るためには何をすればいいのか。
「伝統を守るには革新的でなくちゃいけないんだよ。ただ続けているんだったら
それは伝承っていうの。伝統っていうのは、いつも新しいよっていうんだよ」
伝統って古いものじゃない。お年寄りのものじゃない。
きらきらした榎本さんの目を見ていると、それが納得できる気がするのです。 

                          アイシオール 豊永育代

上の写真、泥団子が座る麻紐で作られた「座布団」は、榎本さん考案による榎本さんの手作り。
近所のおそばや「新開屋」とは親戚のようなつきあい。のれんの前で。写真/三谷浩

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