七つの神社を巡る|古川潤さん(1)紹介コラム

10月15日からのメイン期間では、アーティストの屋外展示が始まります。
どんな考えや環境で創作活動を行い、土祭2021では、
どんな世界を私たちに見せてくれるのでしょうか。
土祭2021の広報冊子『ヒジサイノート』に掲載中のアーティストへのインタビュー記事を、お一人ずつ、こちらでも順に紹介していきます。今後、住民レポーターさんたちによる制作風景のレポートの掲載も始まりますので、どうぞお楽しみにお待ちください。
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アートプログラム|七つの神社を巡る 益子地区 綱神社
古川潤さん  謎解きを繰り返す、創造のプロセス
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古川潤さんの彫刻作品は、町内の屋外空間、三箇所で目にすることができる。
城内坂の陶芸店「もえぎ」の前、陶芸メッセ・益子の芝生広場、益子小学校の校庭。
どれも石の作品だ。

美大の彫刻学科で石彫を学び、卒業後は国内の野外彫刻展やオーストリアやインドの彫刻シンポジウムに参加し、20年近く、石を刻み続けてきた。
土祭では、2回目の2012年から作品を発表しているが、全て木彫の作品ばかり。石から木へ、作品づくりの素材を変えたことには、どんな経緯があったのだろうか。

子どもの頃の記憶と、
土地の記憶を手繰り寄せて

 「ひとことで言うと、創作活動も、自分の益子での暮らしに引き寄せたかった、ということかなと思います。石彫で自分がつくりたいものに向く石は、外国産のものが多かったんですが、年齢を重ねていくうちに、地元で手に入れられるもので物作りをする方が自然に思えてきたんですよね」と、古川さん。

自分の暮らしの中で処理できるもの、そして、暮らしのシーンの中にあっても違和感がないものをつくりたいと、創作の関心が移ってきたと言う。
自宅でもアトリエでも薪のストーブを使う古川さんにとっては、木は、暮らしの材としてもいつも身近にあるものだ。彫刻の材としても、トチノキ、イチョウ、サワラ、ヒノキ、それに栃木では珍しいクスノキなど、いろんなご縁で木が集まってくるそうだ。伐採された木々が、茶器やカトラリーなどの暮らしの道具や木彫作品として、また息を吹き返す。

この10年ほどで、古川さんのアトリエでは、クマ、ヒツジ、イノシシ、カモメ、ペリカンなど、実在の生き物が、姿形を表してきた。頭が現実世界にいる動物で体が人間の姿をしたものもいて、人間とモノが一体となっているような造形もある。動物、人間。現実のもの、架空のもの。創作において、そんな線引きは無いと言う。見る人も、単にオブジェとして捉えてくれてもいいし、神話の世界の登場人物として見てもらえてもいいし、見る人の夢物語になぞらえてもらってもいい。そこは、自由に受け止めてほしいと、古川さんは言う。

今回の展示会場、綱神社は、古川さんにとっては、生まれ育った地元の神社であり、2015の土祭に続いて2回目の舞台となる。
前回は、神の使いとして、イノシシ、ハクビシン 、カラスなどを神社とその周辺の野に放った。 今回は、構想するにあたって、綱神社の歴史を調べ直し、幼い頃からの自身の記憶も手繰り寄せた。

「ふと、思い出した記憶があるんだよね。小学校の低学年の頃、綱神社の百年祭だったのかな、友達と火渡りの儀式を見に行ったんですよね。今思えば、境内に登る階段の下の広場みたいなところだったかな」

 おぼろげで断片的な記憶をいくつか辿りながら、そのピースに、綱神社を建立した宇都宮家三代の朝綱(ともつなが)が、1194年に土佐に流されたと言う歴史のエピソードなども重ねていく。遠い昔に、さまざまな人の思いをのせて水の上を進む舟。浄土庭園の池の名残・・・。ここは山の上だけど、水の記憶も確かに眠っているのではないだろうか・・・。

「構想では、無意識のうちに舞台設定が描けてきて、制作に入ると、今度は形をつくりながら、それをもう一回追いかけて、謎解きを追体験していく。創作は、自分にとって、謎解きの繰り返しかもしれませんね」

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古川潤さんプログラム紹介ページ
http://hijisai.jp/program/c-03-4/
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『ヒジサイノート 3号』より転載。
益子の未知の日常を探る巻頭記事なども掲載した土祭2021の広報冊子『ヒジサイノート』は
土祭オンラインサイトでも送料のみで購入できます。
https://hijisai.stores.jp
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取材・執筆・写真|簑田理香(風景社)

 

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