作品展示アルバム[5]道祖土・上大羽エリア

[この土地で生きることの祭り「照らす」道祖土エリア・上大羽エリア]

城内エリアから北へ。濱田庄司記念益子参考館やスターネットがあり、
古くから益子焼に用いる原土も多く採掘されてきた道祖土(さやど)のエリア。
そして南東へ足を伸ばして、中世の歴史がいまも息づく上大羽エリア。
3名の作家の展示をご紹介します

15「世界と私/風が吹くと木の葉が騒めく」 藤原彩人 元PANEM 石蔵とその周辺

益子に拠点をもつ彫刻家 藤原さんは、石蔵の中と庭で、3つの立体作品と、
窯の中に投影するという形での映像作品とで展示を構成。
かつてイタリア人のパン作り職人によって使われていた釜の中に映し出されたのは
「生成の影の光」と題された「こねる手」の動きのシルエットでした。

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16 「水ヲ分ケルウツワ」 古川潤 上大羽・綱神社とその周辺

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彫刻家の古川さんは、ここ、上大羽エリアの住民でもあります。
子供の頃から馴染んできた土地の空気に、
生き物たちを、その気配の空気とともに置きました。

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木の家の中にいたのは、ハクビシンでした。
カメラマンのO田さんは、早朝の光で会場を撮ろうと、夜明け直前に訪れ、
イノシシの気配に驚き、思わず大きな声をあげてしまったそうです。
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17「素/しろ 舞踏する成井恒雄の体温」 村田昇 starnet zone

写真家の村田さんは、土祭の総合プロデューサーであった故・馬場浩史さんによって
陶芸家・成井恒雄さんの世界へ導かれました。
3年前に他界された成井さんの工房に都内から通いつめ、
残されていた「素焼き」を追い続け、今回の展示となりました。

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会場に展示された、企画協力の豊永郁代さん(アイシオール)による文章をご紹介します。

MASHIKO アヴァンギャルド

素焼きの壺が、土瓶が、踊っている。
成井恒雄さんのてのひらから、笑いながら出てきたのかな。
成井さんの体温をまとったまま、輪になって踊っている。

 こんな器をつくる人なら、
一人、踊っていただろう。
どんな暗い夜も、古代の血のリズムに合わせ、身体を波打たせていただろう。
たとえじっとしているように見えても、いつもなにかに激しく突き動かされていただろう。

村田昇の撮った器の写真から感じる成井さんは、村田が思う成井さんだ。
村田は、生前の成井さんに一度しか会っていない。
馬場浩史さんのスターネットの野外でのパーティで、新聞紙にくるんだネギを焚き火で焼いて、
ものすごくおいしい料理にしてくれた。
すごい、と感動したけれど、それ以来会うことはなく、成井さんは幻の存在だった。
「成井さんの仕事場を撮ってほしい」。
成井さんを高く評価していた馬場さんに頼まれたのは、成井さんが亡くなったあとだ。

 成井さんの仕事場で、村田は釉薬のかかる前の素焼きの器と出合う。
「なんて言うのかな、ああ、アヴァンギャルドだと感じた」。
「もしかすると」と村田は言葉を継いだ。
「長い時間を陶芸家として過ごし、ある程度の年齢になったとき、
これからはつくりたいように、自分のためにやきものをつくろうと決めたんじゃないかな。
この素焼きは、自由に手を動かしてつくったもの。そんなふうに、僕には感じられた」。
それは、村田の現在の心境と通じるものだった。

 10年以上前、成井さんの登り窯が三日三晩焚かれると聞き、
私は山崎光男さんに連れていってもらったことがある。
大きな登り窯が赤くふくらみ、煙を闇が吸っていた。
創造と祝祭の窯焚き。
仕事場の囲炉裏近くに座り、白熱灯の下でお茶を飲んでいた成井さんは、
石像のように彫りが深くて、静かな笑みをたたえていた。
ここに、この人がいる。
そのことで、集まっている若い陶芸家たちが安心しているのが感じられた。
その夜、いちばん印象に残ったことだった。

 スターネットと土祭を牽引していた馬場さんが、一昨年亡くなった。
いや、益子とみんなが、馬場さんを失ったと言うほうがしっくりくる。
馬場さんもいるだけでよかった人だ。いまも、村田は益子をしばしば訪れる。
いろんな人、景色を撮りながら、馬場さんと成井さんに会いにくる。
アヴァンギャルドを感じにくる。
アヴァンギャルドとは、エレガントで洗練された野蛮だろう。
自由。良いものも悪いものも知っている容量。駄目なものを駄目だという優しさ。

 
「心から出てきた鼓動をかたちにすればいいのかなと思うようになった。
偶然に舞い降りるものに対して、予期しない結果に対して、美しいと思えるかどうか。
思うままに身体で、写真を撮ればいい」。
成井さんの素焼きを見ていると、村田はそう思えるのだと言う。
熱中して素焼きを撮った。
あるとき、ファインダーをのぞかないでシャッターを切った。
器の注ぎ口が見切れてしまったが、村田は「これからは、こっちだ」と言った。

 二人のアヴァンギャルドが死ぬまで暮らした町、益子。
いろんな人たちが移り住んできた益子。
その理由は、見ようとしなければ、見えない。
わかりやすい美しさ、わかりやすい温かさ、わかりやすい弱さ、そのもっと奥にあるものはなにか。
結界の向こうにあるものに、眼を凝らしたいと村田は思う。
かつてこの町は、アヴァンギャルドたちになにを与えたのか。
益子はなんのインキュベーターだったのか。
その答えは、益子を、私たちを、まだ待ってくれている。

 文・豊永郁代

(事務局 簑田|撮影 長田朋子 矢野津々美)

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