七つの神社を巡る|浅田恵美子さん(1)紹介コラム

10月15日からのメイン期間では、アーティストの屋外展示が始まります。
どんな考えや環境で創作活動を行い、土祭2021では、どんな世界を私たちに見せてくれるのでしょうか。
土祭2021の広報冊子『ヒジサイノート』に掲載中のアーティストへのインタビュー記事を、お一人ずつ、こちらでも順に紹介していきます。今後、住民レポーターさんたちによる制作風景のレポートの掲載も始まりますので、どうぞお楽しみにお待ちください。
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アートプログラム|七つの神社を巡る 七井地区 御霊神社
浅田恵美子さん  「心木(しんぎ)」

御霊(ごれい)神社は、比較的車の往来がある広域農道の脇に位置している。駐車場に車を止めて浅田さんと待ち合わせた境内へと入る。神社をぐるりと取り囲む樹木は高くそびえ立ち、車の騒音からの防波堤になっているようだ。静かな空気が満ちている。
「中に入ると驚くほど静かですよね。それに、いい風が通る」と、浅田さん。

神社は遊び場だった

京都で生まれ育った浅田さんは、陶芸家の夫・横尾聡さんとともに一九七八年に益子に移り住み、陶芸作品と陶や鉄などを用いたインスタレーション作品の発表を続けている。

「益子に引っ越してきて定住したのがこの地区内なので、最初の年は氏子の当番だよ、と言われて、何もわからないままに御霊神社の祭の準備に駆り出されていたんです。掃除をしたり、旗をあげたり。その当時は、ここまで木が高く伸びている印象がなかったけど・・・。今は祭りもなくなっていますけど、昔は、お店も並んで子供たちもたくさん集まって賑わっていましたね。ここにくるのはそれ以来だから、四十年近く経ったのかな。こうして展示で関わらせていただくのは感慨深いですね」

京都では、寺社は子どもの頃から馴染み深い場所でもあったのでは? そう尋ねてみた。

「町じゅうに神社やお寺があって、学校が終わって遊びに行くとしたら決まって神社の境内。特に約束はしていなくても、行くと必ず誰かがいて、かくれんぼをしたり缶蹴りをしたり。祭りも盛んでした。子ども心に印象深いのは地蔵盆ですね。大きな造り酒屋があって、そこの蔵にみんなが集まるんです。ゴザを敷いて、おまつりするお地蔵さんを連れてきて、お母さんたちが、かやくご飯を作ってくれる。造り酒屋だから、大きな木の樽があるんですよ。そこで冷やしたスイカも食べて。ここに来ると、そんなことも思い出しますね」

浅田さんの話を聞くうちに、私も故郷の神社の姿や祭りの記憶が蘇ってくる。同時にまた、浅田さんの思い出話が自分の記憶の一ページのようにも感じられてくる。社寺や歴史ある建物には、人それぞれの個別の思い出とは別に、長い年月におよぶ人々の共同記憶のようなものが眠っているのだろうか。

時間の流れと重なりを感じる場所で。

この前、友人から、この神社の近辺で出たヤジリや石斧を見せてもらったんです」と、浅田さん。偶然にも、かつてここに道路が通る際に行われた発掘調査のお手伝いをした方と、浅田さんは知り合いだったそうだ。「石斧って、本当に斧の形になっていて、持ち手をつけて布や縄を巻けば、そのまま使えそうなくらい、きれいなまま残っていました。大昔も、ここに人が暮らしていて、そういうものを作っていたんですね」

御霊神社とその近辺に積み重ねられてきた人の暮らしの歴史を、浅田さんは、作品づくりで引き受けようとしている。

「タイトルに予定している心木<しんぎ>は、車輪の軸、心棒のこと。今回は、車輪という形で作品を作ってみようと思っています。歴史や時間の流れと重なりを感じる場所で、その軌跡をしっかりと残しながら回って転がっていく。足跡みたいなものをつけていく。そんなイメージで作品を構想しています」

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浅田恵美子さんプログラム紹介ページ
http://hijisai.jp/program/c-03-6/
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『ヒジサイノート 2号』より転載。
益子の未知の日常を探る巻頭記事なども掲載した土祭2021の広報冊子『ヒジサイノート』は
土祭オンラインサイトでも送料のみで購入できます。
https://hijisai.stores.jp
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取材・写真・執筆 |簑田理香(風景社)

 

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