参加レポート|風景社セッション第3回ー「文化の地産地消」から生まれてくるものは

はじめに

9月4日、風景社セッション2021「その先の、風景を語ろう。」の第3回目が開催されました。講師には、鹿児島県の地域プロジェクト「一般社団法人リバーバンク」の代表理事をされている坂口修一郎さん。今回のテーマにある「文化の地産地消」についてのお話を伺いました。


【第3回のゲスト、坂口修一郎さん】

【コメンテイターの小鮒ちふみさん】

文化を地産地消するって?

さて、「文化の地産地消」とはどういうことを指すのか。
なんとなくわかるような、でもいざ説明しようとするとうまく言えません。
坂口さんのお話から、その意味を読み解いていこうと思います。

その前にそもそも「地産地消」とは、どんなことを指すのか。一般的には、地域で生産されたものをその生産された地域内で消費することをいいます。農業の分野で使われることが多いのですが、自然エネルギーなどほかの「産物」についても使用されることもあります。
坂口さんは、「文化の地産地消」とは地方の文化をそこに暮らす人々が生み出し、互いに認め合うこととされています。「消費」ではなく、「認め合う」というところがポイントです。

それでは、「認め合う」とはどんな事なのでしょう。
今回のお話の中で印象に残ったのが、「シビックプライド」という言葉。これは「都市に対する市民の誇り」と訳されるのですが、そこには単なるまち自慢ではなく「ここをよりよい場所にするために自分自身がかかわっているという、当事者意識に基づく自負心」という意味があります。
坂口さんは、自分たちの足元にある価値を見出すことが地域の自己肯定感を高める事につながり、そのためには地元の良いところは、まずは内側にPRしていくことが大切だ、という文脈の中でこの「シビックプライド」という言葉を使われていました。
「認め合う」ということは、地元の良いところをそこに住む人が価値あるものとして捉える、ということなのでしょう。

坂口さんがフェスを開催しようと考えた際に選ばれた場所は、周囲に人家がなく公共交通機関も通っていない場所にある廃校です。
一般的には、そんな場所はイベントを開催するには向いていないと考えられます。でも川口さんはその「マイナス要素」を、「地域の人に迷惑をかけずに思い切り音楽が楽しめる」という「プラス要素の価値」として捉え、今現在もその場所で様々な形のイベントを開催されています。まさに足元の価値が見出された例と言えるでしょう。

 

地域の活性化って?

さらに「地域の活性化」とは、必ずしも地方経済が潤うことや、住民の平均所得が上がることだけではないのでは?という投げかけがありました。
確かにそうした「活性化」の結果、都会と似たような景色が広がり、どこかと同じような催し物をすることで、その結果一時的にでも生活が便利になり、多くの人が集まるようになることはあるかもしれません。しかし、場合によってはその地域独自の価値を減らしてしまう事もあります。だからこそ、そこに自分たちにとって本当の意味での活性化とは、そこで暮らす「幸福」とはということを、きちんと考えていくことが大切だと思います。

セミナーの後半、那珂川町在住の小鮒ちふみさん(こぶな農園台所担当・おへそ共室主宰)とホスト役の大塚康弘さんも加わってのトークセッションの中では、小鮒さんから「少子高齢化がすすみ、(地域で)どんなに頑張っても無くなってしまう。どうしたらよいかと思っていたが、坂口さんの『小さいけれど多様な世界を作る』という言葉が印象に残った」というお話がありました。

【左から、コメンテイターの小鮒ちふみさん、ホストの風景社・大塚康宏さん、ゲストの坂口修一郎さん】

このお話は、減っていくのを何とかして止めることに尽力するのではなく、よい減り方を考えていく、と言えるかもしれません。そのためにも「文化の地産地消」は大切なことでしょう。

 

じゃあ、幸せな地域って?

坂口さんは、「幸福度は、友人や理解者が増えることで増していくもの」と話されます。また、「価値観を共有する仲間が増えることが大事」とも。つまり、同じ価値観を持つことで幸福度が増す、という事なのでしょう。
誰かが描いた既成の「幸せ」ではなく、自分(たち)自身や暮らし・文化、そして住んでいる場所自体の価値に気づき共有することが、これからの地域にとって大切なことなんだということを、坂口さんから伝えられたように思います。

土祭というイベント時だけではなく、日常の暮らしの中で感じる些細な「幸せ」が、やがて地域への愛着につながり、他の人たちと分かち合うことでやがては「幸せな地域」へとつながっていく。その先に見えてくる益子町の「未来」は、きっと今以上に穏やかで居心地のいい場所になっていることでしょう。

土祭レポーター:鈴木利典、写真:簑田理香(風景社)

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